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今治の赤レンガ

産業研究科 学芸員 藤本 雅之
近代的な電球工場の一角に、レンガ塀が残されている。周囲の建物が白を基調にしているため、異質な感じがする。2本のガス灯は、レトロ感をさらに盛り上げている。場所は、今治市のほぼ中心部、県道38号線(旧国道196号線)が蒼社川を渡る蒼社橋の北西にあるハリソン東芝ライティング株式会社の敷地内である。会社の敷地内のため、誰もが自由に入ることはできないが、レンガ塀は県道からも見える位置にある。このレンガ塀は、昨年11月までレンガつくりの建物だったが、工場に新棟を建設するため解体された。

 大正4~7年頃、この工場は「興業舎」という綿織物の工場として建てられた。当時、今治はまだ市ではなく町であり、その範囲は今よりかなり狭く、この工場の場所は「日吉村」という村だった。興業舎の工場は、多いときには、500人以上の人が働く大規模な工場だった。大正9年、今治町は日吉村と合併し、「今治市」になった。今治の町のエリアが広がり、農村から綿工業都市へ移行する直前にできた工場だった。その後、工場は、昭和19年に東芝の今治工場になり、電球を作ることになる。昭和25年、東芝から独立してハリソン電機株式会社となり、平成12年、さらに社名がハリソン東芝ライティング株式会社となった。会社の名前は、発明王トーマス・エジソンが初めて炭素電球の量産を開始した、アメリカ合衆国ニュージャージー州ハリソンの地にちなんでいる。昭和19年以来、鉱山用電球や自動車用電球など様々な種類の電球を作ってきた。ハリソンのレンガ塀は、90年以上もの間、綿織物の町「今治」を見守り、この敷地内で最後まで残ったレンガ造りの建物の一部である。


かつてのレンガ棟
(平成16年10月撮影)

現在のレンガ塀モニュメント
(平成18年7月撮影)



 さて、レンガ棟の跡にたった新棟では、何を作っているのか?実は、今よく売れている家電製品に使われているある部品を作っている。大型テレビには、液晶テレビやプラズマディスプレイやプロジェクションテレビなどがある。その中の、液晶テレビのバックライトに使われている「冷陰極放電灯」を作っている。液晶テレビは、電圧によって光の通り方が変化する幕の後ろからバックライトの光を通過させている。バックライトがない液晶画面は、うす暗く画像が出ているだけで、ほとんど何も見えない。歴史ある敷地の中で、最新で売れ筋の家電製品の重要部品が作られている。
冷陰極放電灯
(ハリソン東芝ライティング製)



 最後に、喜田信代著「日本れんが紀行」に、『煉瓦は好きですかと尋ねて、嫌いと答える人はほとんどいない。「煉瓦」についてのアンケートで、煉瓦建築に感じる形容詞を挙げてもらったが、頑丈・重厚・きれい・立派・丈夫というほかに、70%近い学生が「あたたかい」と答えている。』という記述がある。私たちも、今治の赤レンガをあたたかく見守っていきたい。
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