学芸員の仕事場

第2回 動物標本の作製

 博物館では、時折「異臭騒ぎ」が起こります。たいていの場合、やや生臭いにおいで、ごく稀に焦げ臭いにおいもすることがあります。そんな時、博物館のどこかで動物(哺乳類か鳥類)の標本がつくられています。ちなみに、生臭いにおいは解剖中のにおいで、焦げ臭いにおいは骨格標本を作っていて失敗した時のにおいです。
 博物館にはいくつかの動物の剥製が展示されています。現在では、精度のよいレプリカや鳥類ではバードカービングといった造形がつくられ、それらが展示されることもあります。希少な種では、こうした展示が有効に使われます。しかし、細かな羽の模様など、実物の標本にしか表現できないこともたくさんあります。

どのように収集するのか?
 博物館といえども、展示のために野生鳥獣を殺すべきではないと考えています。現在、博物館で収集している哺乳類、鳥類の標本は、小型哺乳類を除いて、すべて事故などで死んでしまった個体です。これらの標本のほとんどは、みなさんからの寄贈によるものです。


標本の種類
 標本にもいろいろな種類があります。展示されている本剥製、いろいろな研究に使われる仮剥製、他に骨格標本、毛皮標本、羽標本、巣標本、卵標本等があります。最近では、DNAの分析のために筋肉を液浸標本として研究者に提供することもあります。


標本はどのようにつくられるのか

テンの毛皮を剥いでいます

 自分で拾ったり、博物館に届けていただいた資料は、まず計測を行います。ただし、ダニ等の外部寄生虫が多い場合などは、一度冷凍させた後に計測を行います。鳥類の場合、全長、翼長、尾長、露出嘴峰<しほう>長、ふしょ長、体重などを計ります。哺乳類では、頭胴長、尾長、後足長、耳長、体重などを計っています。資料に寄生しているダニなども、計測の際に採集して標本にしています。計測が終わると仮のラベルを付け冷凍保存し、数がまとまったところで剥製標本などに加工します。
 展示に使われる本剥製や、毛皮標本などの作製には専門的な技術が必要です。博物館でもこうした標本は、専門の方にお願いしています。博物館でつくっているのは、主に研究用に使われる仮剥製や骨格標本です。

シカの頭を煮ています
 タヌキを例に標本になるまでの流れを紹介します。交通事故などで博物館に運び込まれたタヌキは、先に述べたように計測し、まず、毛皮を剥ぎます。その後、必要に応じて胃などを採取し、大きな筋肉はできるだけ除いておきます。剥いだ毛皮は、専門の方に鞣<なめ>していただき、毛皮標本となります。そして残りは、骨格標本になります。骨格標本の作り方にはいろいろな方法がありますが、煮込んで骨にするか、ウジに食べてもらう方法を使ってします。小型のネズミなどの場合は、乾燥させてカツオブシムシに食べてもらっています。

タヌキを腐らせているところです

完成した頭骨標本
手前からタヌキ、ハクビシン、キツネ
 煮るのもなかなか時間がかかります。骨には油分が含まれているので、それを出来る限り除くため何度も繰り返し煮込みます。最後に、薄い過酸化水素水で漂白し、乾燥させて仕上げます。
 こうして作られた標本は、ラベルに計測値やいつどこで採集されたものかを記入し燻蒸<くんじょう>された後、収蔵庫に納められます。
 博物館の標本は、展示されているものだけではありません。収集された大部分の標本は収蔵庫に納められ大切に保管されています。こうした標本は、いつどこにどんな生き物が生息していたのかという最も確実な記録となります。地域に、どのような生き物が生息しているのかを把握することは、博物館の重要な仕事の一つです。
 標本は、より多くの方に利用していただいてこそ活かされます。そのためにはよい標本を作らねばなりません。そして、完全な状態で保存し、確かな記録として将来に伝えていかねばなりません。

(企画普及係 学芸員 山本貴仁)



お願い
動物資料の収集には皆さんのご協力が必要です。事故などで死んでしまった野生動物を見つけた時は、博物館までご連絡ください。


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