研究ノート

銅製錬今昔物語

世界トップクラスの製錬技術

 現在、新居浜市と西条市にまたがる東予工場では製錬が行われています(図1-6)。製錬する銅精鉱は、チリ、オーストラリアなどからの輸入品で、銅品位30%です。銅精鉱とは、銅鉱石を砕いて粉状にしたものです。製錬行程では、まず輸入銅精鉱を船から調合ビンに移します。次に鹿児島県の菱刈<ひしかり>鉱山から運んだ金鉱石を混ぜ、ドライヤー、サイクロンで乾燥させます。金鉱石を混ぜるのは、銅精鉱の中に含まれる鉄などの不純物を、効率よく除去するためです。気流乾燥させたものを、熱風とともに自溶炉<じようろ>に装入し溶かします。自溶炉では、450度で酸素濃度45%の熱風が吹き込まれ、銅品位60〜65%の“カワ”と、銅をほとんど含まない“カラミ”に分かれます。ドロドロになった“カワ”を転炉に移し直接空気を吹き込むと、酸素との反応で熱が発生し銅品位98%の粗銅ができあがります。それを精製炉で銅品位99.2%にまで精製し、約1m角の板状の型に流し込み、冷やし固めます。次に、プラス極になるその板(アノード)を銅電解槽に浸けると、電気分解によりもう片方のマイナス極の板に銅が移動して、銅品位99.99%の電気銅を得ることができます。それと同時に、銅電解槽の水溶液の中には、アノードに含まれていたニッケルやアンチモン、ビスマスが溶けだし、金や銀が底にたまる仕組みになっています。ここで分離された貴金属等も別の行程を経て製品となります。こうしてつくられた電気銅は、電子材料等に使用されるため、再び船で出荷されます。

 この製錬行程で出るガスは、硫酸工場で硫黄分を回収され肥料製造に使われます。また、自溶炉の熱でボイラーを沸かした際に出る蒸気は、自家発電タービンに送られ発電に使われます。自溶炉等から出る“カラミ”は、高水圧で冷却され砂状にスラグサンドになります。スラグサンドは、優れた特性を持つ人工砂として、埋め立て材料やセメント材料等に使われています。遠くは、オーストラリアや中国にも輸出しています。

 このように、現在では排出物有効利用や大量製錬等の技術が確立されましたが、銅製錬の基本的な方法(銅鉱石を溶かした中に別の金属を溶かし入れ、効率よく銅を分離させる方法)には、今も昔と変わらない同じ原理が使われています。

(産業研究 学芸員 吉村久美子)



参考文献
「幽翁」昭和8年 聴松会発行 昭和56年 住友修史室復刻
「住友別子鉱山史」平成3年 住友金属鉱山(株)発行
「歓喜の鉱山」平成8年 新居浜市発行


・別子の山に蘇った緑

・海上の孤島 四阪島の挑戦

・世界トップクラスの製錬技術


輸入銅精鉱荷揚げ

輸入銅精鉱
(銅品位30%)


自溶炉から流れ出るカワ
(銅品位60〜65%)


転炉で粗銅完成
(銅品位98%)


精製後アノード型に鋳造
(銅品位99.2%)


銅電解槽で電気分解
(銅品位99.99%)


電気銅の出荷


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