話題提供

 ●「道具の魅力」
学芸課科学技術研究科 久松 洋二

 科学技術研究科の収蔵庫には実にさまざまな種類の資料がおさめられています。50年以上も前の実験器具たちや現役の展示物、AIBOなどのロボットや磁石の原料など、科学や技術に関係するいろいろなものたちが(お見せできないのが残念ですが)本当にあふれかえっています。その中から今回は古い電気製品にスポットをあてて紹介しましょう。

 まず最初は1933年(昭和8)の電気扇から〈写真1〉。この資料は箱まで残っている大変珍しいものです。1年前に寄贈を受けました。収蔵庫の逸品です。扇風機という商品名が使われ始めたのは昭和10年代以降で、それ以前は電気扇と呼んでいました。現在の東芝、当時の東京芝浦電気製です。当時のものはどれも首が短く、羽を守る格子にデザインが施されているのが特徴です。大切に使われていたことに加え、作りがシンプルなので、寄贈される直前まで現役だったそうです。この当時ですでに風量調節も首振り機能も備わっていました。
 道具としての扇風機の歴史は古く、江戸時代にはすでに存在していたようです。電気製品として、つまりモーターで動かすものはエジソンによる1890年(明治23)が始まり、日本では1894年(明治27)に第一号機がつくられました。
電気扇 電気扇の箱
〈写真1〉
電気扇。右下に風量調整つまみが見えます。右は電気扇の箱。注意書きがないところが今の製品と違いますね。

 日本でテレビ放送が開始されたのは1953年(昭和28)。国内でのテレビの需要が急速に伸びるのはもう少し先の話です。しかし、テレビの世界的な需要はこのころもはや伸び悩んでいました。そんな中、一躍脚光を浴びたのはポータブルテレビの分野です。60年代に入り、ポータブルのトランジスタテレビが発売されると、その市場はたちまち日本製が独占します。
 〈写真2〉は1960年(昭和35)日本初のポータブルテレビ(TV8-301)と当時の広告です。テレビにしては形が丸い、といった印象を受けるのではないでしょうか。発売当時の価格は69,800円。コンセントだけでなく充電池でも車のバッテリーでも使用可能。この当時から車内でテレビを見るというコンセプトを打ち出していたんですね。
日本初のポータブルテレビ TV8-301の広告
〈写真2〉
日本初のポータブルテレビ。SONY初のテレビ商品。直視型では世界初でこれ以後のポータブルテレビの基本デザインを決めた商品です。右はTV8-301の広告。この商品のコンセプトと高い能力に驚かされます。

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 初期のビデオデッキも今の姿と全然違いますね〈写真3〉。1976年(昭和51)の松下製VX-2000。木目調は当時のテレビにマッチするよう、このころのビデオデッキに特徴的なデザインでした。価格は21万円。この年まで松下電器は独自のビデオテープ規格を持っていました。ちょっと横にひろい形が特徴のビデオテープです。最近寄贈されました。テープ1本100分で5,500円。今でこそ10巻1,000円程度で買えますが、ちょっと前までテープだって高い買い物でしたよね。松下寿電子工業西条事業部(西条市福武)で作られていた製品です。
松下製VX-2000 ビデオテープ
〈写真3〉
ビデオデッキVX-2000。中央上に飛び出しているところがテープを装填する場所です。右はVX-2000のビデオテープ(左)とVHS規格のビデオテープ(右)。

 最後は1950年代の真空管ラジオ(東芝かなりやTS)です〈写真4〉。実は、私が初めて扱った真空管ラジオでもあります。寄贈を受けた当時、この資料は全身まっ茶色。まるで木箱のようでした。資料をみがいて淡いブルーが見えたとき、白く変色してると思っていた前面パネルに透明度が戻ったときの感動を覚えています。1940から50年代、世界中でユニークなデザインのラジオが生まれました。日本でも戦後いち早く立ち直った産業を示すように個性的なデザインが多く発表されました。このラジオは、そんな時代をあらわしている科学技術資料なのです。
東芝かなりやTS 〈写真4〉
かなりやTS。段のついた形と前面の変形パネルがめずらしいラジオです。

 古い電気製品には、その中の科学、技術の成熟度をこえて、その姿や経過した時間がかもしだすなんともいえない魅力があります。当館で何度か展示したとき、来館者のみなさんの反応も製品としての魅力に集中していました。これからも機会があるごとにこのような資料を展示していきたいと思います。製品と対峙したときに感じる懐かしさやぬくもり、愛らしさをぜひ感じてください。そして、その奥にひそむ科学と技術に思いを巡らせてください。

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