●火星 |
自然研究科 学芸員 鈴木 麻乃 |
[→8月27日の大接近] [→9月の火星] |
先月、火星が地球に大接近するという天文現象があったのをご存知でしょうか?最接近日は過ぎましたが、9月はまだまだ明るい火星を見るのにちょうど良い時期です。もう見た方もこれから見る方も、さらに火星フリークになってもらおうと、今回は火星の生命の話と9月の空に見える火星の情報をご紹介します。 |
●火星の基本知識 | |
火星は地球と同じく、太陽のまわりを回る天体・惑星で、地球のすぐ外側を回っています。地球と比べると、大きさは半分くらい、重さは約10分の1です。2つの月(フォボス・デイモス)を持っています。 火星には二酸化炭素を主成分とする薄い大気があり、霧や雲が発生することも知られています。北極と南極には、極冠と呼ばれる二酸化炭素が凍った(ドライアイス)部分があります。表面に酸化鉄(赤サビ)が含まれているため、火星全体が赤い色に見えます。自転軸が25.2°傾いているので季節があり、太陽系の中では地球に最も良く似た惑星です。 |
●「火星人」の意外な歴史 | |
火星の生命探査に触れる前に、「火星人」の意外な歴史についてご紹介しましょう。 1877年に19世紀最大の接近があったとき、イタリアの天文学者G.スキャパレリは火星の表面にたくさんの筋状の模様を発見し、これを「canali(イタリア語で「みぞ」「水路」の意味)」と呼びました。これが英訳されるときに「canal(英語で「運河」の意味)」と間違って訳されてしまったことが、後の「火星には人工的な運河があって、火星人がいる」という誤解につながったようです。 1894年には、アメリカのアマチュア天文家P.ローウェルが火星の模様を詳しく観測し、その結果「火星の運河は知的生命体によって作られたものである」という発表をしました。この説に刺激を受けて、火星を舞台にした物語がたくさん登場しました。イギリスのSF作家H.G.ウェルズが書いた「宇宙戦争」では、火星人のイメージとしておなじみのタコのような宇宙人が登場します。1938年にアメリカでこの物語がラジオドラマとして放送されたときには、あまりに真に迫った演技に放送を聞いていた人々が本当に火星人が攻めてきたと勘違いして、大パニックになったという話もあります。 |
●新時代の生命探査 | |
20世紀になって観測衛星が実際に火星を撮影するようになると、ウェルズがイメージしたような火星人ははっきりとその存在が否定されました。ローウェルがスケッチした筋状の模様は人工的な運河ではなく、火星の大地に入った亀裂であることが分かりました。 しかし、観測技術が進むに従って、逆に生命が存在する可能性が科学的に見つかり始めたのです。それは「水」の存在です。 地球の生命は太古の海から誕生したと考えられています。生命の誕生に関して、海のような大量の水が重要な役割を持っているとすれば、水の存在は生命の存在の可能性を示すことになります。 現在では、先の筋状の模様は昔、火星の表面を大量の水が流れた跡であると考えられています。また、現在も活動中の探査機マーズ・オデッセイやマーズ・グローバル・サーベイヤーによって、火星の夏にとけた極冠の下から大量の水が氷の状態で存在している可能性が発見されています。 もし火星に昔、海が存在したとしたら、その時代には生命が存在していたかもしれません。火星における生命の存在は、私たちを興奮させるだけではなく、地球における生命誕生の謎を解くカギとなるのです。 |
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火星の北半球。中央の白い部分が極冠。同じ部分をガンマ線で見たのが下の2枚の画像。濃い青色の部分が水素の分布を示す。 | |
冬の北半球。 | |
春の北半球。 | |
火星の表面に見られる筋状の模様をアップした画像。過去に水が流れた跡だと考えられている。 | |
P.ローウェルが描いた火星地図(中央は極冠) |
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