●「こんな藻(も)、見たことありませんか?」 |
学芸課 自然研究科 学芸員 小林 真吾 |
昨年、愛媛県では「レッドデータブック」という本が出版されました。県内に生息・生育する動植物のうち、絶滅の恐れのある種についてまとめた本です。この本をつくるために、専門家の方々が集まり県内にどのくらいの動植物がいるか調べ、絶滅の恐れのある動植物を選びました。しかし、この調査では取り上げられなかった生物のグループがいくつかあります。そのうちの一つが「藻類」です。 藻類は、光合成で酸素を発生させる生物の中から、種子植物・シダ植物・コケ植物を除いた残りの生物です。藻類は、顕微鏡で見ないと分からないような小さなものから人の背丈より大きくなるものまで、様々なグループに分かれている点や、海中・土壌中・空気中など色々な場所に生育するため、全部の種類を知ることが難しい生物です。私たちが普段口にするワカメやコンブ、ヒジキ、ノリなどは、俗に「海藻」と呼ばれる海に生育する藻類です。 絶滅の恐れのある藻類の中でも、特に淡水に生育する藻類は絶滅の危険性が高く、県内にはオキチモズク・オオイシソウ・カワモズク類、シャジクモ類が分布しているとされています。これらの藻類は目立たず、一般的に関心が低いため、分布状況がよく分かっていません。身近な水路や池に海藻の仲間がいる、というのはイメージしにくいと思いますので、特徴などを簡単に紹介します。 |
●オキチモズク |
昭和13年に川内町吉久の「お吉泉」で八木繁一氏によって発見され、生育地は国の特別天然記念物に指定されています。現在、愛媛県内では野生状態でほぼ絶滅、生育地保存の努力が継続されています。名前に「モズク」とあるように、見た目は食べているモズクを長くしたような姿です。全体に濃い赤褐色で、長さは数十センチほどまで生育します。 | ▲オキチモズクの生育地 (川内町教育委員会提供) |
●オオイシソウ |
明治33年東京の多摩川で大石博士が発見して名づけられました。愛媛県では、前掲の八木氏によって確認されてから記録がありませんでしたが、昨年になって約40年振りに土居町で確認されました。今のところ、土居町が県内唯一の自生地です。全体が暗い緑色、手触りはゴワゴワした感触です。夏から秋にかけて生育し、大きなものでは長さが1メートルほどになります。 | ▲オオイシソウ 写真中の黄色のスケールは1メートルです。 |
▲このページのトップへ |
●カワモズク |
こちらも、名前にモズクとあるように、姿は食べているモズクに似ています。よく見ると、小さな球が数珠つなぎになっている様子がわかります。湧水や湧水から流れ出した水路など、きれいで冷たい水辺に見られます。全体が褐色のものと濃い緑色のものがあり、県内では、今のところ5種類が確認されています。冬から春にかけて生育し、全体の大きさは手のひらに乗る程度です。 | ▲カワモズクの仲間 球形〜樽型のかたまりが「じゅずつなぎ」になっている ように見えます。 |
●シャジクモ |
大きくシャジクモの仲間とフラスコモの仲間の2種類に分かれます。ため池や湧水、水田など水の流れていない場所に生育しますが、まれに水路中にも生育します。場所によっては普通に見られますが、これまで県内ではまとまった調査が行われていないため、分布の実態はよく分かっていません。シャジクモ・フラスコモともに数種類ずつが県内に生育しているものと思われます。大きさは、数センチほどの小さいものから30センチ以上になるものまで種類によって差があります。色は黄緑〜濃緑色で、茎を取り巻くように細かい枝が出るのが特徴です。 |
▲シャジクモの仲間 茎からは細かな枝(小枝)が取り巻くように出ています。 |
▲小枝の拡大 小枝につく生殖器官などの特徴で種を見分けます。 この種では明暗2種類の茶色の粒がついています。 |
これらの藻類は、どこにどれだけの種類と個体数がいるか分かる前に、確実に絶滅の足音が近づいています。皆さんの住んでいる場所、通っている学校や職場の近くでこのような藻類を見かけたら、ぜひ博物館までご連絡ください。
|
▲このページのトップへ |