研究ノート

 安定したシャボン玉をさがせ!
学芸課科学技術研究科 主任学芸員 進 悦子

 シャボン玉は、当館の科学イベントや実験講座では定番の実験テーマです。小さなシャボン玉のみならず、直径50cm以上もあるものや、人が入れる程のシャボン玉の迫力には、子どもも大人も大興奮です。

 今年の5月に、科学イベントで使用するため、友の会科学クラブのメンバーが、いつものように市販の洗剤(界面活性剤40%以上)と洗濯糊を使ってシャボン液を作り、当日使おうとしました。しかし、小さなシャボン玉はできるものの、大きなシャボン玉はうまくできず、「シャボン玉に入ろう」の実験はやむなく中止しました。

 翌月、なぜ出来なかったのか原因を突きとめて、安定したシャボン玉を作る方法を探るため、科学クラブのメンバーと学芸員が集まって研究会を行いました。失敗したシャボン液には、最近発売された泡切れのよい食器用洗剤を使っていました。「泡切れがよい」と言う特徴が、シャボンをできにくくしているのではないかと考え、食器用洗剤が原因ではないか?と仮説を立てて、次のように実験および評価を行いました。



【1】用意した材料
[1]水 蒸留水
[2]洗濯糊 PVA 系洗濯糊2 種 G( 弱酸性)、H(中性)
[3]洗剤 A (界面活性剤41%、アロマ付)
  B (界面活性剤41%、A がパワーアップしたもの)
  C (界面活性剤41%、オレンジピール入り)
  D (界面活性剤50%、ジェル状)
  E (界面活性剤43%、除菌できるタイプ)
  F (界面活性剤18%、業務用液体洗剤)
  G (界面活性剤28%、100 円ショップ)

【2】実験方法
[1]混合比を、洗剤:洗濯糊:蒸留水= 1:5:10 でシャボン液を作る。
[2]割り箸2 本に毛糸を結び付けて輪を作り、シャボンを作る。
[3]シャボン玉の大きさ、色合い、割れにくさを評価する。

【3】実 験用意した洗剤および洗濯糊
[1]洗剤の違いによる影響
[2]洗濯糊のよる影響
[3]添加物による影響

用意した洗剤および洗濯糊。どれもホームセンターなどで手に入る。


【4】結 果

洗剤 大きさ 発色 割れにくさ
A (41%アロマ) G
B (41%パワー) G
C (41%オレンジ) G
D (50%ジェル) G
E (43%除菌) G
F (18%業務用) G ×
G(28% 100 ショップ) G × × ×
A (41%アロマ) H × × ×
B (41%パワー) H × × ×
C (41%オレンジ) H × × ×
D (50%ジェル) H × × ×
E (43%除菌) H × × ×
F (18%業務用) H × × ×
G(28% 100 ショップ) H × × ×

実験の様子  いろいろな材料を組み合わせてシャボン液を作り、科学クラブのみんなで実験、評価した。

 1位の配合の液で作ると、このように安定した大きなシャボン玉ができた。 実験の様子



実験の様子 洗濯糊H を使うと膜がはじけるように割れ、シャボン玉になりませんでした。調整後24 時間経過させても同様の結果でした。イベント用に使ったのは、たまたま手に入った洗濯糊H だったのです。両方ともポリビニールアルコールですが、弱酸性の洗濯糊Gではうまくできました。洗剤以上に洗濯糊の選定が重要なのがわかります。

 洗剤は、界面活性剤40%程度を含むコンパクト洗剤であれば、ほぼ同等のシャボン玉ができました。最初に疑った「泡切れのよい」原因とされる添加物POER(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を、よくできるシャボン液に1g 添加してみましたが、特に影響はなく安定したシャボンがでました。

安定したシャボン液の順位は、次のとおりでした。
 1 位 洗剤A(41%アロマ) : 洗濯糊G : 蒸留水= 1 : 5 : 10
 2 位 洗剤B(41%パワー) : 洗濯糊G : 蒸留水= 1 : 5 : 10
 3 位 洗剤D(50%ジェル) : 洗濯糊G : 蒸留水= 1 : 5 : 10


 混合比を一定とした条件で、最適のシャボン液を見つけることができました。泡切れがいい、除菌ができるなど、市販の洗剤や洗濯糊の開発は目覚ましく、本来の目的には問題ないのですが、シャボン液づくりには今回のような実験・研究も必要です。製品がいろいろと変わる中で,私たちは何がシャボン液づくりにいいか(それ以外の実験でも)的確に把握し、うまく利用したいと思います。この結果を、これからのイベントに活用していきます。


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