ころがるふしぎなかたち 〜スフェリコン等高重心立体〜 |
久松洋二 |
でこぼこ道を自転車や車で走ると、体がガタガタと上下に揺れてしまいますね。ガタガタした動きとは、重心が上下に動くことです。平らな床でも、サイコロのように角のあるものを転がせばガタガタします。角を乗り越えるときに重心が上下に動くためです。重心と接地点の距離が場所によって違うと、転がり方はガタガタします。逆に重心から接地点までの距離がいつも同じ球や円柱などは、スムーズに転がります。円錐形もそうです。円錐は尖った先を中心として円運動します。ただし、球のように前進することはできません。いつも同じところを回り続けます。前進しながらスムーズに転がる立体は、球や円柱しかないのでしょうか? |
図1 スフェリコン(sphericon)のなりたち スフェリコンとは、正方形の対角線に沿った回転体(左図)の半分を、回転軸にそって切断して90度回転させてはり合わせた図形(右図) |
正方形をその対角線で回転させた図形は、ちょうどそろばんのような形(図1)になります。この形を回転軸を含むように2分し、1方を90度回転させても、もともと正方形の辺で作られた面なのでスムーズに張合わされます。この立体をスフェリコンといいます。1970年頃、イギリスのC.J.ロバーツ氏が発見しました。一般に知られるようになったのは1999年。I.スチュアート氏が科学雑誌に紹介したことがきっかけです。スフェリコンこそ、丸くないのに前進しながらスムーズに転がる立体なのです。 しかし、ちょっと見ただけではスムーズに転がる形に見えません。そこで、その表面(図2)に注目しましょう。角(赤と青のふち)以外の場所(白い帯)をたどると、なめらかな1本の閉じた道になっています。スフェリコンを床におくと、常に白い帯の場所が接地しています。中心から接地点までの距離はいつも一定で、どの姿勢でスフェリコンを置いても、いつも重心の高さが一定になるのです。白い帯が曲がっているので、くねるような動きになりますが、全体はデコボコせずにスムーズに転がりながら進みます。 |
図2 スフェリコン スフェリコンの表面は1枚の面でできている。白い帯は途切れずに図形を1周している。 |
スフェリコンのユニークな動きは、実際に見てはじめて納得するはずです。スフェリコンの作り方を図3、4に紹介しますので、一度作って実際に転がしてみてください。作り方は2種類あります。また、転がる動きの他にも立体的な配置など興味深い性質もあります。同じ作り方で、他にもくねりながらもスムーズに転がり進む図形を作り出すこともできます。簡単な形に潜む興味深い性質を、皆さんもぜひ調べてみてください。 |
図3 スフェリコンの展開図 外周をはさみで切り取り、実線を山折する。実線ののりしろを点線にあわせるように張り合わせると、スフェリコンになる。 |
図4 スフェリコンの骨モデル 円の半分を直角三角形に切り取り、赤線部分に切れ込みを入れたものを2枚用意する。図のように直交させて張り合わせると、スフェリコンと同じ動きをする骨モデルになる。 |
〈参考文献〉 Stewart, I.(1999):“Corn with a Twist.”Sci. Amer. 281 pp.116-117. (和訳 坂井公(2000)円錐をひとひねりしたら.日経サイエンス339 pp.124-126.) |
ひさまつ・ようじ/主任学芸員・科学技術担当 |
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