洗濯の科学 |
藤本光章 |
生活していると毎日必ずついてくる汚れ。特別に何もしなくても様々な汚れが衣類に付きます。その汚れにはどのようなものがあるのでしょうか?汚れを落とすための洗浄のメカニズムや洗剤の役割について紹介します。 |
●なぜ洗濯をするのか 汚れが溜まったからといって命にかかわるようなことはありません。しかし、溜まった汚れは微生物の栄養源となり、微生物の分解物が原因となって、皮膚にかゆみを起こさせる可能性があり、健康を害することになってしまう恐れがあります。そして、分解物は、一般的に不快な臭いを持っており、自分やまわりの人の気分を害します。目に見える汚れも不快感を与えます。 |
●汚れの正体 汚れにはどのようなものがあるのでしょうか。例えば、汗、ほこり、泥、醤油、ケチャップなど様々な汚れが身の回りにはあります。 衣類に付く汚れを調べると、体から付くものと、外から付くものに大きく分けられます。人間の体は、健康に生活するため、毎日、いろいろな機能を働かせています。その結果、‘汗’や‘皮脂’、‘あか’などが出てきます。これらは、服に付着し、‘汚れ’に変化してしまいます。また、服は外の環境にさらされているため、泥や空気中のほこり、煙草、食品、化粧品、筆記用具など様々な汚れが付きます。 |
●洗浄の手順 私たちが日ごろ行っている洗濯を例に、洗浄の手順についてまとめてみましょう。
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●洗浄を助ける働き 合成洗剤には、界面活性剤という成分が含まれ、洗浄の際、重要な役割を果たします。界面活性剤には「水と油をなじませる。水の表面張力を低下させ、繊維に水をしみ込ませて汚れを落とす。汚れを包み込んで汚れを付きにくくする。」という働きがあります。また、最近では更に界面活性剤の働きを助ける成分も洗剤の中に含まれるようになりました。 |
〈界面活性剤の働きを助ける成分とその働き〉 |
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●洗濯の歴史 人類がいつ頃から洗濯をするようになったのか、はっきりは分かっていませんが、衣類を汚れたら捨ててしまうのではなく、くり返し着用するようになってから自然発生的に行われるようになったと推定されています。そして、人類が最初に発見した‘洗浄剤’は、川や泉、沼などの自然の水でした。 洗浄剤の歴史は、B.C.2500年頃まで遡ります。古代メソポタミアで発見された粘土板には、くさび形文字に石鹸の製造方法が記されています。また、B.C.2000年ごろのエジプトの墳墓の壁画には、洗濯の動作が描かれており、パピルスに残された記録には、天然ソーダに動植物の脂肪を加えて加熱する方法が記されていることから、すでに石鹸が知られていたようです。 古い歴史をもつ洗濯ですが、現代のスタイルに変わり始めたのは、洗濯の歴史からみるとつい最近のことで、日本では1950年代中頃からです。その中で、画期的な変化だったのは、洗濯機と合成洗剤の登場です。洗濯板を使って手でゴシゴシ洗っていた洗濯も、今ではスイッチ一つで洗い、すすぎ、乾燥まで全部行ってくれる便利な全自動洗濯機が登場し、普及しています。そして、合成洗剤の洗浄力も飛躍的に向上し、最初は1回分の必要量が150gだったのに対し、現在ではスプーン1杯の25gですむようになりました。 |
石鹸には、固形や粉、液状などいろいろあります。固形の石鹸は四角いものが普通ですが、いろいろな形の石鹸を作って楽しみましょう。 |
[用意するもの] 固形石鹸(いろいろな色)、下ろし金、水、スプーン(小さじ)、クッキーなどの型 |
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ふじもと・みつあき /主任学芸員・科学担当 |