先日、当館の博物館実習が終わりました。6〜7月に中学校のインターンが行われ、11月と来年1月には高校のインターンが行われます。昨年度は、2月〜3月に専門学校のインターンもありました。

実習を担当をしていると、ときどき「インターン生」と「実習生」とを間違われてたずねられることがあります。この二つは実は似て非なるものなので、今回はこのことを取り上げてみようと思います。

※挿入された写真1〜4は、2019年度の博物館実習のものです。博物館講座「水上をスイスイ進む!ホバークラフトを作ろう」の様子です。

▲写真1:ホバークラフトの製作方法の説明を受ける

§1:違いの要点

■博物館実習とは■

「博物館実習」といわれてもピンとこない人の方が多いと思いますので、別の例を引いてみますね。

例えば、みなさんが小中高の児童・生徒の時代に、担任の先生が、朝の会で突然大学生くらいの人を連れてきて、「今日から教育実習生がこのクラスにくることになりました。自己紹介をしてもらいます。」「じゃあみなさん。これからは●●先生と呼んでくださいね。」と言われて「わーっ!」と思っていたことを覚えていませんか?「うちのクラスにも来てくれたらよかったのに…」なんて思っていませんでしたか?

教育実習生と言えば、先生の卵。いずれは先生となってどこかの学校に赴任する…と、そういうふうに思っていたと思います。「博物館実習生」も同じで、実習を終えれば「学芸員」の資格を取ることができ、博物館などに就職します。

では、「インターン」とは何でしょう。

■インターンとは■

「インターン」は、インターンシップの略で「職場体験」「就業体験」などと訳されます。主に中高の学校が事業者などにお願いをして、生徒に仕事の体験をさせてもらうことです。

実習の場合は、その職種(先生や学芸員など)に就職することを前提に考えている人が多いです。それに対して、インターンの場合は仕事や社会体験に重点を置いているので、体験する生徒の希望があればそれに沿うようにしますが、希望がなくてもどこかに配属されて体験活動は行われるようになっています。

※もともとインターンそのものの定義はあいまいですが、大学や専門学校のインターンを取り上げるとさらにわかりにくくなるので、ここでは大学等のインターンは除いて説明していきます。

▲写真2:ホバークラフトの製作風景。机間巡視をして補助をします。

§2:近年インターンシップが注目される理由

■実習とインターンの違いのまとめ■

ここ数年インターンが注目されているのは、不登校や引きこもりなどの社会的不適応の増加、就職しても数年以内に離職してしまうミスマッチの増加に対する具体策の一つとされているからです。

加えて、日本は少子高齢社会、人口減少社会に入りましたから、これから深刻な労働力不足が心配されています。

愛媛県でも今年度から「えひめジョブチャレンジU-15」が本格的に導入され、原則として同一事業所で連続5日間のインターンが実施されることになりました。当博物館でもそれに対する受入態勢を整えていったところです。

中学校・高等学校では学級活動や総合的な学習の時間などにおいて、「なぜ働くのか」「自分の適性をどう見出していくのか」などの問いに向き合い、体験活動も行って知識と体験の総合化を図り、キャリア教育の推進に努めています。

■くわしく知りたい方へ■

文科省の推進する体験活動と職場体験の考え方、「えひめジョブチャレンジU-15」については、こちらを参照してください。

「1.1.体験活動の教育的意義」 「第1章 職場体験の基本的な方考え方」

えひめジョブチャレンジU-15とは

また、首相官邸に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置して「地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する」取組を始めました。「地方創生インターンシップ」と位置づけられ、愛媛県でも教育界・経済界・自治体が一体となって推進しています。

地方創生インターンシップ(首相官邸)

令和元年度インターンシップの実施について(愛媛県)

・当館でもインターン生を受け入れています。

インターンシップ全学ガイダンス(愛媛大学

・インターンシップ以外にも様々な取組をしています。

▲写真3:参加者から相談を受けアドバイスをしているところ

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§3:当館における博物館実習とインターンシップ

■当館における博物館実習とインターンの実際■

では、当館では実際に実習とインターンがどのように行われているのかご説明します。

ご覧になっておわかりのように、活動の内容には違いがあります。

その理由は、博物館実習が将来博物館で働くことを前提に、大学の講義では学べない技術や知識の習得を目的とするの対して、インターンは博物館での体験から将来の進路の選択肢のひとつとして博物館を考えてもらうことを目的としている、という違いによるものです。

例えば、教育普及活動(博物館講座など)のように実習とインターンで同じような体験(事前に材料を作って用意をしたり、参加者のサポートをするポイントを学んだりすることなど)をする場合があります。

しかし、実習の場合は、ただ単に活動を行うだけでなく、博物館の組織や仕事の中での博物館講座の位置づけ、年間予定など博物館講座の全体構成ができるまでの過程、それぞれの講座の準備工程と事後のフィードバックの方法などを学習します。また、当日参加者の前で実験や製作物の科学的でわかりやすい説明をする課題を与えられることもあります。

つまり実習では、座学と体験活動を通して、学芸員としてどのように「教育普及活動」に取り組むべきなのかということを学びます。これは博物館の現場で体験しないと学べないことです。

それに対して、インターンの目的は、学芸員になることではなく、「働くとはどういうことか」を身をもって体験してもらうことにあります。

各校の評価項目に「礼儀正しく行動していたか」「時間をきちんと守ったか」「真面目に仕事に取り組んだか」などが含まれているのは、仕事体験、社会体験に重きを置いていることの現れになると思います。それと同時に、体験をしながら博物館の仕事に関心を持ってもらい、将来の選択肢に加えてもらうという目的も含まれます。

■くわしく知りたい方へ■

博物館実習が行われる根拠となる省令と文科省から出ているガイドラインに博物館実習の詳細が記述されています。

博物館法施行規則博物館実習ガイドライン

文科省の職場体験の考え方は§2で取り上げた通りですが、もう一度引用します。

「第1章 職場体験の基本的な方考え方」

また、今年度の中学校のインターンと、昨年度の博物館実習についてついては、当ブログでまとめていますのでご紹介します。

2019年度中学校インターンシップ▶2018年度博物館実習

今年度の博物館実習については、以下、写真を交えて簡単にご紹介します。

▲写真4:できあがったホバークラフトでタイムレースを行いました。

§4:2019年度に行われた当館の博物館実習

■オリエンテーションと接遇研修■

・初日午前には、開講式、実習生の自己紹介と実習の抱負、オリエンテーション、博物館の概要の説明。昼食後、館内案内、展示案内、プラネタリウム案内と鑑賞、実習の課題解説、接遇研修などを行いました。

・実習生も教育普及活動や館内移動時に来館者と接するので、館内で来館者に対する対応の仕方について研修を行いました。

・実習の課題「企画展の企画」は、最終日に発表をすることになっているので、初日に説明を行い、10日間課題に取り組んでもらうために行っています。

■資料収集・整理保存の実習(調査研究的な部分も含む)■

・「植物及び海藻標本の作成」では、25日に博物館周辺の植物を採集して、新聞紙に挟んで乾燥させ、31日の「標本の整理・保管」の際に植物のマウンティングとラベルの貼付を行い標本を完成させました。

▲写真5:できあがった植物標本

・「博物館周辺の生物調査」では、野外に出る予定でしたが、雨のため室内で昆虫の標本作成をしました。

▲写真6:インドネシア産ヒメカブトの標本作成

・「資料整理」では、産業資料(航空機産業関係)のデータベース化を行いました。

■展示制作・展示企画の実習(調査研究的な部分も含む)■

・「展示資料制作実習」では、26日に常設展の展示物の修正ポイントのチェックを行い、29日には実際に展示物の修正を行いました。

・「展示のワークシートの作成」では、学習指導要領に基づいたワークシートの作成を行いました。

▲写真7:教科書や指導要領を参考に中生代のワークシートを作成

■教育普及活動の実習■

「教育普及活動」は、博物館講座の準備と当日の運営補助をしました。

・一つは、23日に博物館講座の化石レプリカ製作概要説明と準備を行い、25日の午後は、講座に参加した人の製作補助を行いました。

▲写真8:実物のアンモナイトの化石の状態を確認し講座に使う化石を選んでいます。

・もう一つは、24日の午前にホバークラフト製作概要説明と準備を行い、午後はホバークラフトの講座に参加した人の製作補助とホバークラフトの浮上・推進の原理説明を行いました。(写真1〜4)

■課題のまとめと発表■

・初日の課題説明に基づき、企画展の企画立案を行ってもらいました。当館の企画展示室を使うことを前提とし、テーマは「地球」としました。

・実習生は「陸上進出大作戦」と題して、デボン紀に植物や動物の生息範囲が海から陸へ広がった点に着目し、そのすごさを伝えるための展示を企画しました。

▲写真9:企画展の基本設計のプレゼン風景

先述した通り、博物館実習とインターンシップには、目的や内容の違いはありますが、どちらも学生や生徒の正しい職業観・勤労観の育成や将来の進路選択などに大切な役割を果たしています。

博物館も、時代や社会の要請に応えつつ、その一翼を担えるように取り組んでいきたいと考えています。

何はともあれ、実習生の方は10日間の実習お疲れ様でした。また、実習を担当してくださった学芸員をはじめ、博物館スタッフ、監視員、ボランティア、講座の参加者など、実習を支えてくださった方々に深くお礼申し上げます。(企画:伊藤)