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タイプ産地(愛媛県東温市お吉泉)における
オキチモズクの発生状況

振興課 企画普及係 学芸員 小林 真吾
 私は博物館で植物や藻類、菌類などの調査や資料収集を行っていますが、この数年は
特に藻類の調査に力を入れています。その中の重要なテーマの一つが、オキチモズクの
調査です。

 愛媛県には、オキチモズクという世界的に希少な淡水藻類が生育しています。
特筆すべき点は、その生育地が世界ではじめて確認された場所であり、天然記念
物に指定されている
ことです。
このように新たな生物が確認されたとき、その基準となった標本は「タイプ標本」と呼ばれ、その標本が採集された場所は「タイプ産地」と呼ばれます。愛媛県の生育地は、オキチモズクのタイプ産地というわけです。

 そのタイプ産地における最近の観察結果について、昨春、鹿児島大学で開催された日本藻類学会でポスター発表を行いました。今回は、その内容をご紹介します。


●タイプ産地におけるオキチモズクの発生状況
1938年 八木繁一氏により温泉郡川内町(現東温市)のお吉泉周辺で見出される
1940年 日本固有の新種として発表
1944年 お吉泉周辺の生育地が国の天然記念物に指定される
1965年 この頃から減少傾向、汚水の流入や地下水位の低下が原因か?
1969年 渇水のため泉や周辺の井戸が枯渇、発生確認できず
1970年 水路の大規模改修、保護区域以外は3面コンクリートの人工水路となる
1974年 オキチモズク発生確認される(以後、自然発生の記録はさらに減少)
1978年 オキチモズクの生育環境と保護復元に関する緊急調査(川内町教委)
減少は水路改変による環境変化、雑排水の流入が要因、日照調節や水路改修により汚水流入を回避することが重要と指摘
1984年 出水により泉の護岸が崩壊・埋没、改修工事が行われる
1990年 自治体による本格的な保護対策がはじまる
1991年 発生確認
1994年 周辺水路改修により汚水の流入が軽減される
1995年 寒冷紗設置
2001年 発生確認(4月)
2003年 発生確認(5月)
2005年 発生確認 環境省レッドリスト見直しによる調査
  • お吉泉の特異性解明(愛媛県総合科学博・海藻研究所・環境総合テクノス)
  • オキチモズクの分類学的検討と分子系統解析(兵庫県立大・国立環境研究所・神戸大学)
  • オキチモズクの生活史解明と系統株保存(国立環境研究所・筑波大学)
3-4月 管理団体(東温市)への協力依頼、水温等のデータロガー設置、発生確認できず
5-6月 調査できず
7-9月 発生確認(最大個体では約50センチ)
10-2月 伸長した藻体は見られないが、基質として礫や水路躯体に付着していたこぶ状の突起は継続して観察されている

お吉泉(愛媛県東温市)
お吉泉(愛媛県東温市)
夏季には水草が繁茂するが管理団体(東温市)によって除去される。

水路 水路
タイプ産地の水路は、発生環境を保全するため寒冷紗に覆われている。


2005年・発生の特徴

  • 伸長1センチ以上の藻体が294個体(近年まれにみる大発生)
  • 寒冷紗の範囲内を中心に発生しているが、湧水の見られる右岸側に多い(従来は左岸に多かった)
  • データロガー設置のために移動したブロックからも発生(寒冷紗の範囲外でも発生した)
  • 越夏した(タイプ産地では記録に無い)




2005年7月15日に
確認された藻体。

2005年7月27日に
確認された藻体。

水中の礫に付着した藻体、
2006年1月6日撮影。


課題

  • 発生時期が変化した原因は?(発生の中心が早春から初夏へ)
  • 環境圧の影響は?(2004年の豪雨、2005年の小雨)
  • 日照調節は妥当か?
  • 試験放流との関係は?


展開 現状変更申請の延長(2008年3月まで)

調査
  • 生育地の特性解析
  • 生活史解明
  • マイクロハビタット
  • 水利慣行の聞き取り
住民参加のデザイン
  • 地権者との協力体制
  • 行政の支援体制
  • 地域住民への普及啓発と協力体制
  • 他地域への情報発信
  • 地域資源の再認識と付加価値創出
  • 政策へ反映
  • 教育プログラムでの活用
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