博物館には色々な「顔」があります。ふだん、皆さんが見ている「顔」は博物館に訪れたときに見る展示や、自然観察会などの普及講座がほとんどだと思います。しかし、私たち学芸員が携わってる仕事には、むしろ展示や講座以外の「顔」の部分が多いのです。そして、これらのあまり見ることのない「顔」が、博物館として重要なのです。このシリーズでは、そんな博物館の「見えない顔」である「学芸員の仕事場」を紹介していきます。
総合科学博物館では、例年9月と2月に臨時休館を頂いています。この期間には、開館している時には出来ない展示物のメンテナンスなど、様々な仕事を実施しています。このような「非日常」的な仕事の1つに、9月の臨時休館に実施される「収蔵庫の燻蒸」があります。
「燻蒸」とは耳慣れない言葉だと思います。ある一定の期間、密閉した場所に対象物と気化した薬剤を封じ込め、様々な害虫やカビなどを退治する作業のことを「燻蒸」を呼びます。博物館に収蔵される資料以外にも、外国から輸入される食品やそれらを運搬する船、変わったところでは畑の土などにも行われています。
(写真/燻蒸中の収蔵庫。銀色の大きな筒には活性炭が入っています。)
資料に対する燻蒸
当館では、主に動植物標本と木材などで作られている産業系資料に対して燻蒸を行っています。これらの資料は害虫によって食べられてしまったり、カビが生じる可能性があります。もし、害虫やカビが付いたまま、他の資料と一緒にしたらどうなるでしょう?そう、虫の付いていなかった他の標本まで食べられてしまったり、カビが生えてしまいますよね。
このため、まず収蔵庫(資料を保管する部屋)に搬入する前に燻蒸を行う必要があるのです。このように燻蒸された資料は、学芸員の手によって収蔵庫に運び込まれます。
(写真/虫に食べられてしまった資料:植物標本)
部屋の燻蒸
さて、収蔵庫には多くの資料が収蔵されています。これらの資料は、他の種類と比較するときの参考となったり、展示されたりします。燻蒸された資料が収蔵庫に入った後も、その部屋自体には人が出入りします。すると、資料そのものには付いていなくても、人の動きに伴って害虫などが部屋に入ってしまうことがあるかもしれません。また、虫は防げても、カビの胞子のように肉眼で見えないものを防ぐのは至難の業です。このため、部屋自体にも燻蒸を行う必要があるのです。
このように、燻蒸には、資料そのものに対して実施する場合と、収蔵庫に対して実施する場合があります。前者は、開館中でも博物館内の機械を使って行うことが出来ますが、後者は大がかりであるため、臨時休館中でなければ行うことができません。
(写真/収蔵庫はこんな部屋:動物系収蔵庫)
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