研究ノート

※写真はクリックすると拡大します。

 ●画像処理技術の植物資料への応用 
科学技術研究科 学芸員 篠原功治

 光学顕微鏡において生じるぼけは、写真1のように資料内部を含んで、3次元的に広がっていく性質があり、著しく分解能を低下させます。この問題をハードウェアでの改善に比べてコスト・場所・時間の観点からより有効な画像処理技術で回避し、プレパラート標本の透過的な内部構造の観察が可能となる方法を、博物館における画像の役割にふれて、処理後の写真を中心に示します。


写真1
写真1
ぼけを含んだカボチャの虫媒花粉画像 (200倍)
写真2
写真2
ぼけを除去したカボチャの虫媒花粉画像
写真3
写真3
緑色の光の成分のみを抽出し、濃淡を反転したグミのりん毛の全焦点画像(50倍)
写真4
写真4
写真3の輝度を視覚化した画像


 ぼけを含まない原画像は、レンズ固有の劣化特性に雑音が加わり、劣化画像となります。あらかじめ劣化特性が分かっていれば、劣化画像からレンズ固有の劣化特性を計算によって除去し、原画像に近い画像を得ることができます。
 この過程を逆フィルタと呼びます。しかしながら、光学顕微鏡から撮影された1枚の画像の逆フィルタを行っても、3次元的に広がっていくぼけまで除去することは困難です。
 そこで、被写体からレンズとの焦点距離を変えて複数枚の画像を撮影し、逆フィルタ後、さらに各々の画像からぼけを含まない画像部分を抽出して合成し、1枚の画像を作ります。この方法をデジタル・フォト・コラージュ法と呼ぶことがあります。この方法は、使用する機材が電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡に比べて大掛かりではなく、容易に安価で行うことができ、資料自身の物理的劣化はほとんどありません。写真2は、10マイクロメートル毎に10枚撮影し逆フィルタ後の画像から構成したカボチャの虫媒花粉の画像で、全焦点画像となります。
 また、様々な要因のため肉眼により接眼レンズから確認した像と、撮影した画像とが異なる場合があります。この場合は、いくつかの光の成分に画像を分解します。写真3のグミのりん毛の画像は、5マイクロメートル毎に19枚撮影し逆フィルタ後の画像から構成した全焦点画像より、波長546nmの緑色の光の成分のみを抽出し、濃淡を反転した画像です。写真4は、写真3の輝度を視覚化した画像で、暗い部分を赤色、明るい部分を青色で表示しています。
 
写真5
写真5
ユリの虫媒花粉の画像(100倍)
写真5のユリの虫媒花粉の画像は、資料の表面と内部の構造が大きく異なり、通常の全焦点画像では、特徴を伝えることができないため、1マイクロメートル毎に35枚撮影した画像から、被写体の下側からの1枚目から3枚目の3枚、21枚目から25枚目の5枚、31枚目から35枚目の5枚を逆フィルタし、各々の全焦点画像を作り、次に、順に青・緑・赤の擬似カラーを施し合成した画像です。
 博物館において撮影された資料の写真は、2次資料と呼ばれ情報創出の重要な要素を含んでおり、博物館活動では、実物資料に勝るとも劣らぬ役割を担っているのです。また、これらの画像処理過程でも微細構造の観察が行え、異なった視点から学術資料と接する機会ともなるのです。



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