四国の森にツキノワグマがすんでいることは、多くの人の記憶から忘れられようとしています。頭胴長120〜145cm、体重70〜120kg。全身が黒く、胸には白い三日月模様があるこのクマは、九州ではすでに絶滅し、四国でも絶滅が心配されています。徳島県や高知県では、少ないながらも生息が確認されているものの、愛媛では1972年10月9日、小田深山の浪ヶ娘から野村部落を通過し、中山町影の浦のクリ園で捕獲された個体を最後に、確実な生息記録は得られていません。
▲(石鎚山系の森)土小屋より石鎚山を望む |
そのようななか、2003年に石鎚山系から3件の目撃情報が寄せられたことから、NPO法人四国自然史科学研究センター、NPO法人日本ツキノワグマ研究所四国支部の研究者らと共同で生息調査を開始することになりました。調査は、ツキノワグマの痕跡探しと、自動カメラを設置しての撮影です。ツキノワグマの痕跡は、ツメ跡や糞の他に、「クマ剥ぎ」と呼ばれる樹皮を剥がした跡を探します。なぜ、樹皮を剥がすのかは、はっきりしていませんが、特にスギやヒノキの樹皮を剥がすようです。自動カメラによる撮影は、赤外線感知型センサーが内蔵された小型カメラを、クマが通りそうな場所に仕掛け、2週間から20日程度後に回収し撮影されているかどうかを確認します。
▲(石鎚山系の森)ブナの森 |
春から行ってきた調査では、残念ながらツキノワグマの痕跡も写真も得られていません。けれども、「ここをクマが通るかもしれない」、「この木に登るかも」とクマの目で山を歩いたり、カメラを仕掛けるのは、普段山歩きをするのと違い、新しい目で山を見ることができます。痕跡を探して歩いていると、意外なほど奥地まで植林されていて驚くこともありますが、巨大なツガやブナの森もまだ残っています。大きなクマの胃袋を満たすには、それだけ餌のある森が必要です。今後は、調査の範囲を拡大しながら、雪が降るまで調査を続けていきます。
今の目標は、生息の確認ですが、その先にある、どのようにすれば四国のツキノワグマ個体群を維持できるかを考えなければなりません。本州では、人に近づ きすぎたツキノワグマが様々な問題を引き起こしている例もあります。大型獣であるために、人とクマの共存は簡単な問題ではありません。しかし、四国から絶滅動物をこれ以上出さないことと、クマがすむことができる森を維持することを真剣に考えなければならない時期がきています。
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