みなさんは地衣類という生き物をご存知でしょうか。地衣類は私たちの身の回りにごく普通に生育している生き物です。目に見えるほどの大きさなのに、これほど見過ごされている生き物も少なくないでしょう。一見すると単独の生き物のように見えますが、実は菌類と藻類が互いに助け合って生きている共生生物なのです。菌類は藻類に安定した生育場所と水分を確保するかわりに、藻類が光合成によってつくった炭水化物をもらって共同生活を営んでいます。分類学では、生殖は菌類が行うために、特殊化した菌類として扱われます。
地衣類の体は、いろいろな形や色をしています。葉っぱのように平たい形の葉状地衣、樹木の枝のように立体的な樹状地衣、石や樹皮に剥がせないくらい密着している痂状地衣など、大きく3つのタイプに分けることができます。
地衣類は寒さや乾燥など厳しい環境に耐えて生活できる半面、大気汚染など都市化による環境変化にとても敏感です。人間には解らない環境の変化で簡単に枯れてしまったり、数を減らしてしまいます。現在、国内では約1,600種の地衣類が確認されていますが、環境庁が発表した植物版レッドリストには、絶滅及び絶滅危惧種として48種があげられています。
▲絶滅種に指定されていた
イトゲジゲジゴケモドキ |
博物館の資料収集活動として、台風で倒れた樹木を標本にするため久万高原町(旧面河村)へ回収に行ったところ、倒れたモミの枝に環境省の絶滅種に指定されているイトゲジゲジゴケモドキ
Heterodermia leucomela (L.) Poelt を発見することができました。この地衣類は和歌山県の高野山で初めて発見されましたが、最近の調査では生育が確認できておらず、国内では絶滅したと考えられていました。細長い体の縁から黒色の偽根(ぎこん)をのばし、枝にからみついています。残念なことに、このイトゲジゲジゴケモドキが生育していたモミは倒れてしまい、もとにはもどりません。枝についていた他の地衣類たちもやがては枯れてしまうでしょう。今回の発見は偶然のものですが、博物館の資料収集活動によって記録を残すことができました。絶滅危惧種に指定されている多くの地衣類は環境の変化に敏感なため、その存続には豊かで安定した自然環境が必要です。一度減ってしまった地衣類を人為的に回復することは、人工的に不可能といえるでしょう。しかし、将来的に絶滅危惧種が増えていくだろうと思われている中で、絶滅したとされていた生き物が発見されたことは、喜ばしい限りです。
|