研究ノート
 グレート・フォールス型転炉
産業研究科 学芸員 吉村久美子

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グレート・ フォールス型転炉
▲写真1 屋外に展示中のGF転炉
 博物館の屋外展示場には、グレート・フォールス型転炉(以下GF転炉・写真1)が展示されています。「グレート・フォールス」という名前を聞いたことがあるでしょうか?アメリカ・モンタナ州中部、ミズーリ川に臨む工業都市の名称です。この転炉は、実はその工業都市で開発されたものなのです。


 瀬戸内海上の四阪島(図1・写真2)には、かつて銅を生産するための銅製錬工場がありました。GF転炉は、大正11年から昭和35年までその工場で活躍し、最多期には4基が工場内に並んでいました。このGF転炉が溶かした物は、銅鉱石だけではありません。昭和18年には、軍需資材を補うため、東予地方から集められた寺鐘50個(写真3)を溶かしたこともありました。
昭和中期の四阪島
▲写真2 昭和中期の四阪島
(写真提供/別子銅山記念館)
戦時中集められた寺鐘
▲写真3 戦時中集められた寺鐘
(写真提供/別子銅山記念館)

銅熔鉱炉図解
▲ 図2 銅熔鉱炉図解
(写真提供/ 別子銅山記念館)
 巨大な熔鉱炉で銅鉱石を溶かすと、銅を多く含んだドロドロ「カワ」が下にたまり、銅を含まないドロドロ「カラミ」が上に浮き上がります。図2のように分離したカワ(赤色部分)を下から抜き、カラミ(黄色部分)を上から抜いていました。この時のカワの成分は、銅約60%、硫黄約20%、鉄約10%です。

熔鉱炉から出るこのカワを大きいおわん型の器に入れ(写真4)、転炉まで運び中に流し込みます。(写真5)そして、転炉内に空気を吹き込むことにより、再び化学反応が起こります。不純物である硫黄分はガスとなり、鉄分はカラミとなってさらに分離されます。このようにして、GF転炉で銅約98.5%の粗銅がつくられていました。(写真6)
熔鉱炉から出てくるカワ
▲写真4 熔鉱炉から出てくるカワ
(写真提供/松山明子氏
撮影/日和佐初太郎氏)
転炉の中へカワを流し入れる
▲ 写真5 転炉の中へカワを流し入れる
(写真提供/別子銅山記念)
転炉から出される粗銅
▲ 写真6 転炉から出される粗銅
(写真提供/別子銅山記念館)


 では、どのようにしてこの転炉に空気を吹き込んでいたのでしょう?転炉の後ろ(写真7)には、たこのイボ(写真8)のようなものがくっついています。これは「羽口」といって、ここから転炉の中へ空気を送り込んでいました。ホース型の機械を持ち、羽口に1カ所ずつ突き刺して圧縮空気を中へ送り込みます。この作業をパンチングといいます。転炉導入当初、パンチングは手動であり、かなりの体力を要する仕事でした。体格のよい大柄の人でも、1列(14本)パンチングを終えて次の人に交代する頃には、あまりの疲労感にその場へしゃがみこんでしまうほどだったそうです。 転炉の後ろ側
▲写真7 転炉の後ろ側

羽口
▲写真8 羽口


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