ここにも科学

 星空マニア
鈴木 麻乃

星雲じゃなくて銀河なんです

 10月上旬の夜遅く、頭の上には秋の四辺形から連なるアンドロメダ座が輝く。この星座に見られるのが、有名なM31アンドロメダ銀河だ。街中では厳しいが、空の暗い場所へ行けば肉眼でも薄い雲の切れ端のように見える。今でも肉眼で見えるくらいだから、文明の灯りが無い時代にはさぞかし夜空で目立っていたことだろう。そう思って調べてみたら、10世紀初めにはすでにペルシャの天文学者が観測していたらしい。望遠鏡で初めて観測したのは1612年、ドイツのシモン・マリウスだが、望遠鏡で見る限りはM31が星の集まりであることは分からない。そんなわけで、M31は長い間星雲だと思われていた。

 時は流れ19世紀、天体を目で見る以外の方法で観測する時代がやってきた。その方法の一つが分光。光をプリズムや分光器で分解すると、スペクトルという光の帯ができる。1864年、イギリスのハギンズは、M31のスペクトルが恒星のものと良く似ていることを発見した。次いで1887年にはロバーツがM31の写真撮影に成功、その結果、この天体は星雲ではなく、渦巻状の星の集団であることがとうとう明らかになった。

 そして1923年、アメリカのハッブルがM31にケフェウス型変光星を発見。その周期と光度の関係を使ってM31までの距離を計算したところ、なんと90万光年という値が出てきた。これにより、ついにM31が銀河系外の別の銀河であることが判明し、それまでの宇宙観を大きく覆すことになったのである。その後、M31までの距離は天文学の発展とともに次々と塗り替えられ、2006年現在では250万光年前後と推定されている。

 長年星雲だと思われてきたM31は、未だに「アンドロメダ大星雲」と呼ばれることがある。しかし、星空マニアなあなたには、あえて「銀河」を強調するくらいの気持ちで「アンドロメダ銀河」と呼んで欲しい。この天体が銀河であることを発見した歴代の天文学者達に敬意を表して。


すずき・まの/学芸員・天文担当


back
戻る