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科学技術研究科 学芸員 久松 洋二
 どこでもいいんです。地球儀上の2地点を選びましょう。 大阪とブラジルのブラジリアでも、松山とイギリスのロンドンでもいいです。選びましたか?
 それでは問題。その2地点を結ぶ一番短い線を描くにはどうすればいいでしょう? 松山と東京なんて近いところを選んだヒトは物差で引けるけど、お互い遠い2地点を選んだヒトは、ちょっと工夫がいりますね。
 ひもを用意して、2地点をおさえながらピンッと張ると描けます。
▲地球儀の表面に糸を張ると、最短ルートが分かります。
 新居浜とアメリカのロサンゼルスなんかは緯度にそってピッと線を引けばよさそうだけど、ホントは一度北を回った方が短いことが分かります。 2点を結ぶ一番短い線といえば直線を思いがちですが、地球儀上の線は必ず曲がっていますね。 「あたりまえじゃないか。丸いんだから。」なんて言われそうですけど。 その面にとっての最短ルートのことを「直線」って呼ぶことにしましょう。 それがたとえ曲がっていたとしても。 ひだりの地球を
クリックしてね!
 地球儀のような球面の「直線」は、面の上の2地点と球の中心を通る平面で切った切り口になることが知られています。 球を平面で切った切り口は必ず円になるのですが、中心を通る平面で切ると、一番大きな円が得られます。 名前は大円。そのまんまですね。 大円が球面の「直線」です。

▲ななめから見たところ
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▲正面から見たところ
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 この「直線」がつくる角度は平べったい世界の場合と同じです。
角のところで分度器を当てて測ります。 あまり大きな分度器だと球の丸みで測りにくいので、球の丸みに邪魔されないくらい小さいものを用意しましょう。
紙の上で描かれる三角形とは、お互い平行じゃない3つの直線で囲まれた図形ですね。
どんな三角形でも3つの角の大きさを足しあわせると180度になります。
球面の三角形はどうでしょうか。また地球儀に戻りましょう。
 地球儀の経線は球の「直線」です。
緯度をあらわす線は赤道だけ「直線」になります。
東経130度線(長崎あたりを通る線ですが)を北極点から赤道までたどります。 経線と赤道は直角に交わっています。 気になるヒトは測ってね。 大平洋を渡って西経140度まで移動して直角に北上します。 北極点でスタートに戻るわけですが。 スタートの「直線」とゴールの「直線」は、やはり直角に交わります。 球面の上の三角形はどの角も90度になるようにも描けるのです! 一般に球面の三角形の3つの角を足しあわせると、必ず180度を越えることが知られています。
球面に描いた三角形。 うまく描くと全部直角の三角形になります。▼
▲球面に描いた「直線」をまっすぐ写し取ってみました。

 「直線」がいっぱい描かれた球面を紙に写すと、最初に書いたように曲がった線ばかりの絵になります。 中心より端の方が線の長さは長く見えますが、もともと全部「直線」なので、球面の円周ということで、全部の長さは本来同じです。 絵がゆがんでいるだけです。

 イメージとは自由なモノです。 逆に球面の「直線」だったことを忘れて、平らな絵の中にゆがみがあるんだ、と思ってもいいのです。 曲がって見えてもこの絵の世界の住人には直線で、しかも全て同じ長さだと思いながら眺めてみてください。
博物館だよりの表紙「ポアンカレの円板」はゆがんでいる世界の絵です。球面の投影とはまたちがったゆがみで、三角形は180度より小さい角度を持ちます。 「直線」は必ず円板の外周に直交する円で描かれます。 この円板の世界の果ては外周です。 私達には限られた長さに見えますが、円板の住人には無限に長い距離に見える、到達できない場所なのです。 残念ながら「ポアンカレの円板」を球面のように立体に引き戻した図形は描けません。 円板の縁に近づくにつれ、絵とは反対に「直線」の長さがどんどん長くなる奇妙な世界をイメージで楽しんでみてください。

▲ポアンカレの円板
 曲がった面にはどういった性質があるのだろうか? この疑問に人類が取り組みはじめたのは今から240年前のことです。 さらに、曲がった面のゆがみ具合を平らな面に写し取る、絵にゆがみの情報を入れるアイデアは、それから百数十年待たねばなりませんでした。 19世紀の発明です。 現在でも曲がった世界は盛んに研究されています。 新しいアイデアを待っている興味深い分野なのです。
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