博物館で植物の仕事をしていると、色々な植物の種類を見分けなければならない状況に遭遇します。体の大きな種類であれば、肉眼かルーペを用いることでほぼ解決しますが、中には野外では種類を調べきれない手ごわい生物もいます。
夏を中心に、田んぼや水路、ため池などで発生する淡水藻類シャジクモの仲間はその典型です。肉眼的な特徴で大まかなグループを見分けることは簡単ですが、その先が厄介。低倍率の生物顕微鏡で枝の分岐の仕方や形、細胞の数などを調べます。そこから倍率を上げて、今度は造精器や造卵器などの付いている場所や表面の線の数を調べます。ここまで調べて種類が分かるものは半分程度。さらに倍率をあげて今度は卵胞子の表面の模様を・・・。一つの供試サンプルだけで分かることは滅多に無いので、この工程を何回も繰り返します。気がつくともう夜も更けて、館に残っているのは自分ひとり、などということもしばしば。このように書くと、地道でつらい作業のように思われるかもしれませんが、そんなことは全くありません。自分にとって未知の生物の名前を調べきったときは、心の奥底の童心を取り戻したような喜びに浸ることができます。
このように、生物を調べて名前を決定することを「同定」と呼び、そうして得られた知見を積み上げた学問を「分類学」と呼びます。どんなに科学が発達しても、野外で生物を学ぶ基本は、分類にあります。この喜びを分かち合える人が減っていることを、とても残念に思います。