博物館だより

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博物館だより

2007年冬号
研究ノート
新産地の発見
川又 明徳

 博物館だよりに何度か地衣類の記事を書きましたが、その後身の回りで地衣類を探された方はいるでしょうか?地衣類なんか見たことないと思った方でも必ず一度は見たことのある生き物なのです。一度、認識してしまえば、街路樹の幹、石碑やコンクリートの上、こんな所にいるはずもないのに?と思うような所にも地衣類を見つけることができます。

イリタマゴゴケの生育環境
イリタマゴゴケの生育環境

 地衣類は身の回りにごく普通に生育している生き物です。目で確認できる大きさなのに、これほど見過ごされている生き物も珍しいのではないでしょうか。一見すると単独の生き物のように見えますが、実は菌類と藻類が互いに助け合って生きている共生生物なのです。菌類は、藻類に安定した生育場所と水分を確保するかわりに、藻類が光合成によってつくったエネルギーをもらって共同生活を営んでいます。分類上は、生殖は菌類が行うので、特殊化した菌類として扱われます。地衣類は寒さや乾燥している厳しい環境に耐えて生活できる半面、大気汚染や都市化による環境変化にとても敏感です。人間には解らない環境の変化で簡単に枯れてしまい、数を減らしてしまいます。現在、国内では約1,600種の地衣類が確認されています。

 愛媛県では、絶滅のおそれのある生き物をまとめたレッドデータブックが2000年に発刊されましたが、その中に地衣類は取り扱われていませんでした。県内に絶滅に瀕している地衣類はないはずはないので、これは調査する必要があると思い立ち、2003年から調査をはじめました。当然のことながら過去の調査記録がないため、はじめは手探りでしたが、毎年いくつかの新しい発見をしています。

 今年は、イリタマゴゴケと呼ばれる地衣類を発見することができました。このイリタマゴゴケは北海道から本州中部の高山帯に生育しているのですが、四国での産地は知られていませんでした。粉芽塊(ふんがこん)と呼ばれる地衣体の表面が粉状の塊となった器官をまばらにつける姿を炒り卵に見立てて名付けられています。この他にも県内初記録となる種類がいくつかあり、標本整理に追われています。標本整理は日々積み重ねていく地道な活動ですが、やればやるほどデータが集まり、生き物の分布やその生態を理解することができます。

 地衣類は、年間数ミリ程度しか生長しない、非常に成長の遅い生き物です。一度、その場から無くなってしまえば再び同じ状態になることは難しいでしょう。こうした生き物が、環境の変化などで気付かぬうちに姿を消していこうとしています。県内を調査し、地衣類相を明らかにすることが急務です。

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イリタマゴゴケ
かわまた・あきのり/学芸員・植物担当.
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