博物館だより

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博物館だより

2007年冬号
ここにも科学
観察日和
「来ぬ人を松帆の浦の夕凪に 焼くや藻塩の身も焦がれつつ」
小林真吾

 お正月に百人一首をされた方は、すぐにお分かりでしょう。これは新古今集の勅撰者、藤原定家の詠んだ和歌です。かつて日本では、海藻を焼いて塩を作っていました。日本最古の歌集である万葉集には、この和歌にある「藻塩・焼く」といった言葉のほかに、「玉藻(美しい藻の意味))」や「なのりそ(ホンダワラの古名)」など、海藻に関する多くの言葉が登場します。

 春先の海辺で海人が海藻を刈っている姿や、藻を焼いた煙がたなびく光景は風情あふれるもので、これを見た万葉の貴族たちは、愛しい人との出会いや別れにその光景を詠み込んだのです。

 2月頃は一年で特に寒さが厳しく、生物にとっては辛い時期のように思われがちですが、実は海の中に育つ海藻にとっては盛りの時期なのです。ワカメやヒジキなど、私たちにとって馴染み深い海藻も、西日本ではこの時期から「旬」を迎えます。

 海に遊びに行くのは夏というイメージが強いですが、たまには違う季節にも行ってみてはいかがでしょうか。これから春にかけての間は、カラフルな海藻で彩られた美しい光景に出会うことができるはずです。ただしワカメやヒジキなどは漁業権が設定されているので、むやみに採集することはできません。

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こばやし・しんご/植物・藻類・菌類担当
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