2008年秋冬号
構造発色繊維
産業研究科 主任学芸員 吉村久美子
平成20年6月、帝人株式会社から化学繊維関連資料14点を寄贈していただきました。さっそく、翌7月から3階産業館の繊維コーナーに追加展示しています。ぜひご覧ください。展示物のうち、漆器、扇子、箸、ネクタイには「構造発色繊維」が使われています。ここでは、その「構造発色繊維」についてご紹介します。
構造発色繊維の特徴
「生きた宝石」といわれるモルフォチョウ。その羽の発色原理をヒントに生まれたのが、構造発色繊維です。この構造発色繊維
は、染色することなく、その構造によって光を干渉させ発色する画期的な繊維です。また、色をつけていないため、色があせるということがありません。繊維をそのまま織り込んだり、細かく裁断して樹脂に混ぜたりして製品になります。衣料品や家庭用品、化粧品等に使われています。
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繊維の発色原理
繊維糸の短径は、0.015〜0.017mm。その中心に、屈折率の異なるナイロンとポリエステルを交互に61層重ねた積層があります。その積層厚みは、約0.005mm。1層の厚みは、0.00007〜0.00009mm = 70nm〜90nm(ナノメートル)。まさにナノテクノロジーです。反射させたい色の波長に合わせて、その積層厚みが微調整されています。同じ繊維糸にも関わらず、積層厚みの違いにより異なる色を発色します。現在は、赤、緑、青、紫の4色が生産されています。
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繊維開発のヒントとなったモルフォチョウの発色原理
チョウの羽そのものは褐色ですが、光が当たるとコバルトブルーに輝きます。その秘密は、羽表面の微細構造にありました。羽の表面には溝があり、溝の中にはヒダがあります。そのヒダの間隔は、約0.0002mm。ちょうど青色の光の波長(435nm〜480nm)の約半分であるため、青色の波長のみが強調され、他の色の波長は、打ち消しあって見えなくなっているのです。
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モルフォチョウは4階自然館で見られます! 博物館の4階自然館にモルフォチョウの標本を展示しています。正面から見ると、どうみてもブルー。この羽が本当はブルーではないなんて、なかなか信じられません。チョウを、真横に近い斜めから見てみたり、両手で光を遮って見てみたり・・・。すると、ブルーの光沢感が落ち、本来の羽の色である褐色を若干見ることができました。うれしいような、残念なような。再び光が当たると、ブルーに輝きます。自然館を通るたび、モルフォチョウの前で立ち止まり、ケースに顔を近づけ、光を両手で遮ってチョウを覗きます。やはり褐色の羽。しつこく何度も同じことをしてしまいます。理屈は分かっていても、不思議でなりません。自然は不思議なことだらけです。21世紀に更なる研究開発が期待されているナノテクノロジー分野ですが、自然界から得られるヒントは、まだまだ数多く残されているように思えます。
構造色のいろいろ
光の波長以下の微細な構造により色を発する構造色は、モルフォチョウだけではありません。多層膜干渉により虹色に光る貝殻の内側。微細な溝による光の干渉で虹色に見えるCDやDVD。大気の分子による光の散乱により青く見える空。表面微粒子による光の散乱により、様々な色を発するオパール。多層膜干渉により青く光るネオンテトラ。多層膜干渉によりメタリックに発色するタマムシ等、様々な構造色が存在します。
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