博物館だより

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博物館だより

2008年冬号
話題提供
愛媛の新しい魚類養殖
産業研究科 主任学芸員 安永由浩

 愛媛県は宇和海と瀬戸内海に面し、さまざまな水産業が営まれています。南西部に位置する南予地方の宇和海沿岸は、リアス式海岸とよばれる入江や湾が入り組んだ複雑な地形となっています。このような地形の湾内は、波が穏やかで水深が深く、養殖施設の設置に向いており、マダイ、ハマチや真珠などの養殖業が産業の重要な柱となっています。平成18年の生産量の統計によると、魚類養殖では、マダイが全国1位、ハマチ(ぶり類)とヒラメが全国2位の生産量をあげています。 愛媛の魚類養殖の始まりは、宇和海各地で昭和36年に始まったハマチ養殖が最初です。稚魚や鮮魚餌料の確保に有利な場所であったことから、急速に成長を遂げます。その後、昭和40年代に本格的なマダイ養殖が始まりました。続いて、昭和50年代にはヒラメ、トラフグ、昭和60年代から平成にかけてスズキ、シマアジ、カンパチの養殖が普及しました。ただ、近年は、魚価の低迷などにより厳しい経営環境が続いています。そのような中、新しい養殖への取り組みが始まっています。

マグロ

 正式な名前はクロマグロといい、スズキ目サバ科の魚です。紡錘型で大きいものは全長3mにもなります。赤身やトロなど刺身や寿司などの定番で非常に人気の高い魚です。延縄漁などで漁獲されるだけでしたが、1970年代から養殖の研究が始まり、各地で養殖されるようになりました。現在のマグロ養殖は、天然の稚魚(ヨコワ)を曳縄釣り漁法で漁獲し、およそ2年の間、生け簀で約30〜40kgになるまで育てて出荷する方式で実施されています。全国では、三重、和歌山、高知、長崎、鹿児島、沖縄で養殖事業が行われています。愛媛では、愛南町のほか、新たに、宇和島市日振島・戸島でも始まっています。

マグロの稚魚(ヨコワ)
マグロの稚魚(ヨコワ)
生け簀内のマグロ
生け簀内のマグロ
マハタ

 スズキ目ハタ科の魚で、ハタの仲間でも大型で、全長1mになるものもいます。アラと呼ぶところもあります。鍋料理に適した高級魚です。愛媛県水産研究センターでは、マハタ種苗の生産技術を開発し、事業化に向けた養殖が進められています。

マハタの稚魚
マハタの稚魚
写真提供 愛媛県水産研究センター
マハタ
マハタ
写真提供 愛媛県水産研究センター
ウマヅラハギ

 フグ目カワハギ科の魚で、頭部が馬の顔に似ていることからウマヅラと呼ばれます。刺身や鍋などに用いられます。以前から、生け簀の掃除屋として他の魚の生け簀に入れて飼うこともあったようです。愛媛県水産研究センターでは、ウマヅラハギ種苗の生産技術を開発し、今後、ウマヅラハギ単独での養殖の事業化が進められる予定です。

ウマヅラハギの稚魚
ウマヅラハギの稚魚
写真提供 愛媛県水産研究センター
ウマヅラハギ
ウマヅラハギ
写真提供 愛媛県水産研究センター

 まだ、始まったばかりの新しい魚の養殖ですが、皆さんの食卓などでお目見えする日もそう遠くないことでしょう。

[協力]
辻水産株式会社、宇和海漁業生産組合、愛媛県水産研究センター
[参考文献]
愛媛県魚類養殖業の歴史、えひめの水産統計(愛媛県) 、まぐろに関する情報(水産庁)、現代おさかな事典 漁場から食卓まで
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